自らの土台を考える:響かせたい自分を構築する「履歴」という設計図 ―― 「なってしまった自分」を愛するために

自らの土台を考える

「バズ」という名の砂上の楼閣

いつからだろうか。世間で人気を博す流行り物や、SNSで瞬く間に消費される「バズ」という現象に、一切の興味が失せてしまったのは。

仲間内でそれらが話題に上れば、一応は話を合わせる。しかし、会話の終了とともに、それらの情報は私の記憶の底から消え去る。かつて「ナンバーワンよりオンリーワン」という言葉が流行ったが、皮肉なことに現実は「誰かが決めたオンリーワン」にこぞって大勢が群がる、同質化の波に呑まれている。

大多数の賛同という「他人の土台」に寄りかかって安心する。そんな薄氷のような文化に、私は「天邪鬼」と言われようとも、違和感を禁じ得ないのだ。

「なりたい自分」から「なってしまった自分」へ

人間も50を過ぎ、近親者の死を多く見届けるようになると、自ずと自らの「死」をも意識せざるを得なくなる。20代、30代は「何にでもなれる可能性」を信じ、理想の自分を夢見て走る季節だ。しかし、残酷な事実を言えば、「なりたい自分」に辿り着ける者は、ほんのひと握りしかいない。

結局のところ、私たちには「なってしまった自分」があるだけなのだ。 英語で言えば “I am who I have become”(私は、私が積み重ねた結果そのものである) と表現すべきだろうか。

目的地を決めずに場当たり的に走り、興味というガソリンだけで走る行為は、いつか必ず疲弊し、最悪の場合は「疲労骨折」のような致命的な怪我を負う。もし、あなたが将来に描く「なりたい自分」があるのなら、一度立ち止まって考えてほしい。それは、あなた自身の「ヒストリー(履歴)」という名の土台に沿った設計図なのだろうか。

貧弱な土台から始まった、私の戦い

以前私は「作曲家になりたかった」と書いた。高校3年の時、「音楽、そして世界の構造を知りたい」という青臭い情熱だけで音大を目指し、一浪の末に入学した。 「ようやく音楽を学ぶスタートラインに立てた」 そう確信したのも束の間、入学して直面したのは、至極貧弱な私の土台だった。

私がスタートラインに立てたことを喜んでいる間に、周りの門下生たちは遥か先を走っていた。私はスタート地点に立った瞬間に、すでに周回遅れだったのだ。それも1周や2周ではない。10週、いや100週。もはや挽回不可能な距離であることは明白だった。

それもそのはず、周囲は幼少期から音楽的基礎を叩き込まれてきた猛者ばかりだ。土台の脆い私は、当然のように地獄のような苦労と挫折感を味わった。私と同じように土台の貧弱だった仲間たちは、その圧倒的な差に耐えきれず、次々と脱落し、別の道へと去っていった。

私が今、サウンドデザイナーとして長年第一線で活動できているのは、ひとえに師に恵まれたこと。そして、つたなくとも「作曲」という行為を通して、無意識に「音の構造」という土台を必死に構築し続けてきたからだと思っている。

私の盟友であり、映画『ジョン・ウィック』のサウンドデザインも手掛けるハリウッドのトップクラス・サウンドデザイナー、アラン・ランキン(Alan Rankin)もまた、若い頃はギタリストを目指していた。彼は結局、ギタリストにはならなかった。しかし、一流のサウンドデザイナーとして世界の頂点で活躍できているのは、ギタリストとして養われた「音への感覚」が、彼の比類なき土台となったからだ。
「なりたかった自分」への挫折さえも、その後の巨大な構造を支える強固な杭(くい)へと転換させた、最良の例と言えるだろう。

自らの土台で、自分を鳴らす

20年、30年と生きていれば、どのような形であれ「土台」は必ず存在している。 己に確固たる土台があればよし。もしそれが足りないと感じるなら、是非その土台を固める方法を自ら探してほしい。流行や他人の評価という「借り物の建材」で自分を飾る必要はないのだ。

なってしまった自分を嘆く必要はない。 大切なのは、今の自分をいかに鳴らすか。そして、あなたが積み上げてきた唯一無二の土台の上で、何を響かせるかだ。

時代に流されず、他人の評価に頼らず、自らを真に響かせることができるのは、あなたが人生をかけて築いてきた「あなただけの土台」なのだから。

5年後、10年後。 その不格好で、しかし強固な土台の上で、あなたという存在が高らかに響いていることを、私は切に願っている。

Yoshihiko Wada / Sound & Light StructureR

30年のサウンドデザインと、10年のファインアート写真。音と光の境界に潜む「構造」を読み解き、再構築する「StructureR(構造家)」。師・伊福部昭から受け継いだ眼差しを軸に、多層的な表現を追求しています。

Over 30 years in sound design and 10 years in fine art photography. A “StructureR” who deciphers and reconstructs the hidden architectures between sound and light. Following the philosophy inherited from my mentor, Akira Ifukube, I pursue multilayered expressions that transcend media.

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